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ネガティブフィードバックを人格否定にしない――「指導」と「人格否定」の境目を、会社としてどう見守るか

「あなたに任せたのが間違いだった」「周りに迷惑をかけている自覚ある?」――部下や後輩のミスを前にしたとき、上司や先輩の口から出てしまうこうした言葉は、本人には「指導」のつもりであっても、受け手には人格や存在価値の否定として届くことがあります。ネガティブフィードバックは相手の成長に欠かせないコミュニケーションですが、その焦点が「人」に向いてしまうと、育成のための言葉は相手の自信や成長意欲を奪う言葉へと変わってしまいます。

本コラムでは、日本ハラスメントリスク管理協会の知見をもとに、ネガティブフィードバックが人格否定に転じてしまう構造と、人事・管理職として現場に伝えたい伝え方の型を整理したうえで、「指導」と「人格否定」の境目が会社からは見えにくいという課題に、組織としてどう向き合うかを、foxcaleの視点から考えます。

ネガティブフィードバックを人格否定にしないためには

(※本セクションは、日本ハラスメントリスク管理協会 執筆コラムに基づき構成しています)

部下や後輩のミスや不十分な成果に対して、改善を求めるフィードバックを行うことは、上司や先輩の重要な役割です。しかし、その伝え方によって、相手の成長を促す言葉にも、相手を萎縮させる言葉にもなります。ここでは、職場で起こりがちな二つのケースをもとに、何が問題になるのか、そして人事・管理職として現場にどのような伝え方を促すべきかを考えます。

ケース1:「任せたのが間違いだった」と言われた日

会議後、上司が部下にこう告げます。「もう少し考えてやってよ。あなたに任せたのが間違いだったかもね」。さらに「他の人はこんなミスしないよ」と続けました。周囲でやりとりを聞いている他の社員たちはこの上司の顔色を窺っていますが、誰も一言も発しません。最後には上司は大きなため息をつきました。

・どのような問題・影響があるか

このケースの上司には、「もっとできるはずだ」「期待しているのに」という気持ちがあったかもしれません。しかし、これらの言葉は、仕事の能力や進め方ではなく、人格や存在価値を否定するメッセージとして受け取られやすい発言です。

「他の人はこんなミスしない」という比較は、改善点を示すものではなく、「劣っているあなた」というラベルを貼る行為になりかねません。「任せたのが間違いだった」は、信頼関係を一方的に断ち切る言葉です。こうした発言が続くと、部下は萎縮し、挑戦を避け、言われたことだけをするようになります。結果として、新しいアイデアは出にくくなり、チーム全体の生産性や心理的安全性も損なわれていきます。

・どのように伝えるべきか

ネガティブフィードバックを伝えるときの重要なポイントは、「人」ではなく「改善してほしい行動」に焦点を当てることです。人に焦点が当たると、「あなたは考えていない」「頭が悪い」といった人格否定になりやすくなります。

一方で、改善してほしい行動に焦点を当てると、たとえば次のような伝え方になります。「この会議資料は結論が後ろにあって、意図が分かりにくいです。次回は冒頭に結論を持ってきて、その根拠と効果を後ろにまとめると分かりやすくなります」。このように人ではなく行動に対してフィードバックすることで、人格否定を避けながら、改善の道筋を具体的に伝えることができます。

ケース2:「周囲に迷惑をかけている自覚ある?」と詰め寄る前に

忙しい時期、ミスが重なった後輩に対し、ベテラン社員が「周りに迷惑をかけている自覚ある?」「なんで自分で気づかないかな」と強い口調で問い詰めます。「これができないと仕事にならないよ」と突き放す場面も見られました。周囲の社員は叱られている社員を気にかけている様子でしたが、誰も何も言えませんでした。

・どのような問題・影響があるか

このケースのベテラン社員に悪気はなく、本人は正論を言っているつもりかもしれません。しかし、「自覚がない人」「仕事ができない人」という烙印を押す表現は、相手の自己効力感を著しく低下させます。「私は役に立たない」「私は人に迷惑をかけている」という思いが強くなると、職場での発言は減り、業務に消極的になり、退職リスクにもつながります。

・どのように伝えるべきか

ネガティブフィードバックは、「事実→原因→改善方法」の順に行うことが基本です。

まず事実を共有し、原因を一緒に考える姿勢を示します。「今回の遅延で、納品に1週間ほどの影響が出ている(事実)。どこでつまずいているか、一緒に振り返ろう(原因)」。伴走する姿勢と、相手への信頼を前提にしたフィードバックは、相手の成長意欲を引き出します。

そのうえで、改善方法を明確に示します。「次からは完成品の数量確認を、発送数と照らし合わせることでミスを回避していこう(改善方法)。この方法を試してみて、感想を教えてほしい」。責めるのではなく、改善に向けた対話として進めることが大切です。

指導の目的に立ち返る

ネガティブフィードバックは、相手の成長のために重要なコミュニケーションです。一方で、その焦点が「人」に向いてしまうと、人格否定になりやすくなります。意識的に「事実」や「改善してほしい行動」に焦点を当てる思考が欠かせません。

指導の目的は、相手を打ち負かすことではなく、成果を共に高めることです。人事・管理職としては、この原点を現場と共有し、人ではなく行動と改善に焦点を当てたコミュニケーションが組織の共通の型となるよう、働きかけていくことが求められます。

「指導」と「人格否定」の境目は、会社からは見えにくい

(※本セクションは、当社の知見に基づく考察・解説です)

ここまでは、ネガティブフィードバックが人格否定に転じる構造と、その伝え方の型についてのお話でした。ここからは、この問題を「個々の上司の伝え方」ではなく、会社としてどう向き合うかという視点で考えてみたいと思います。

二つのケースに共通する「周囲の沈黙」

先の二つのケースには、共通する描写があります。周囲の社員が上司の顔色を窺い、叱られている社員を気にかけながらも、「誰も何も言えなかった」という点です。

人格否定に近いフィードバックの影響は、言われた本人にとどまりません。その場にいた周囲のメンバーは、「次は自分かもしれない」「ここでは失敗を見せてはいけない」と学習します。こうして、一人への言葉が、チーム全体の発言や挑戦を抑え込む空気を作っていきます。心理的安全性の低下とは、こうした小さな場面の積み重ねの結果として起きるものです。

当社は、企業の不正調査やデジタル・フォレンジック調査を支援してきました。その現場で、不正や不祥事が起きた組織のコミュニケーション記録を確認すると、問題となった行為そのものの前に、日常のやり取りの中に強い叱責や人格否定に近い言葉、そしてそれに対する周囲の沈黙が見られることがよくあります。ミスや懸念を口にすると強く責められる環境では、人は問題を隠し、報告を遅らせ、つじつまを合わせようとします。ハラスメントの問題として語られる「言えない空気」は、コンプライアンスの観点から見れば、不正の芽が報告されずに育っていく土壌でもあります。

なお、法律面でも、2020年6月(中小企業は2022年4月)から、事業主には職場のパワーハラスメント防止のための措置を講じることが義務づけられています(※1)。厚生労働省の指針では、パワーハラスメントの代表的な言動として「精神的な攻撃」(人格を否定するような言動や、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責など)が挙げられています(※2)。業務上必要かつ相当な範囲で行われる指導はこれに該当しませんが、その「範囲」を超えているかどうかのチェックを、現場の一言一言のレベルまで行うのは容易ではありません。

指導の「質」は、会社からもっとも見えにくい

会社として難しいのは、この境目が、経営や人事の立場からは見えにくいという点です。

同じ「厳しい上司」であっても、事実と改善行動に焦点を当てて部下を育てている管理職と、人格に踏み込む言葉で部下を消耗させている管理職がいます。前者のチームでは、メンバーがミスを早く報告し、改善が回り、人が育ちます。後者のチームでは、メンバーが萎縮し、報告が遅れ、やがて人が離れていきます。しかし、会社が把握できるのは多くの場合、離職や業績といった「結果」であり、そこに至るまでの日々のやり取り、つまり指導の「プロセス」は把握できません。

管理職研修で「人ではなく行動に焦点を当てる」「事実→原因→改善方法の順に伝える」といった型を教えることは有効です。ただ、研修で学んだ型が現場で実践されているか、繁忙期やトラブル時にも維持されているかを、会社が確認する手段はほとんどありません。エンゲージメントサーベイで「上司との関係」に関する項目を見ることはできますが、年に1〜2回の調査では、その間に起きていることを捉えきれない面があります。そして、叱責を受けている本人や周囲のメンバーが、相談窓口にそれを伝えることは、先のケースの「周囲の沈黙」が示すとおり、現実には簡単ではありません。

フィードバックの多くは、すでにテキストで交わされている

一方で、状況は変わりつつあります。業務上のフィードバックの多くが、対面や電話ではなく、チャットやメールで交わされるようになりました。「もう少し考えてやってよ」という一言も、進捗報告への返信も、いまはテキストとして日常の業務コミュニケーションの中に残っています。

これまでのコラムでも触れてきたとおり、こうした記録は、ハラスメントの申告があった際には調査の対象となり、「指導のつもりだった」という主観と、記録に残る客観的な言葉との乖離が問われることになります。これは有事の話です。

しかし、同じ記録を平時に見れば、それは組織の「指導の質」を映す鏡でもあります。上司からの指摘がどのような言葉で行われているか。指摘の後、メンバーからの発信は続いているか、それとも途絶えているか。チーム内の会話が特定の人物からの発信に偏り、他のメンバーの発言が減っていないか。こうした変化は、有事の証拠としてではなく、平時の「気づき」として活かすことができます。

日常のコミュニケーションから、「育てる指導」と「消耗させる指導」の違いを捉える

当社が開発を進めている「fairscope」は、メールやチャットなどの日常のコミュニケーションデータをAIで解析し、組織の状態を可視化するHRインテリジェンスサービスです。チームの中でのやり取りの構造や対話の状態の変化を継続的に捉え、たとえば、あるチームで特定のメンバーからの発信が減っている、上司からの指摘の後にメンバーの反応が乏しくなっている、といった兆候を、人の感覚だけに頼らず定点的に確認できるようにすることを目指しています。

ここで強調したいのは、こうした仕組みの目的は、管理職の言葉を監視し、処罰することではないという点です。fairscopeが示すのは、対話を始めるべき場所についての「気づき」です。「このチームでは、この数か月、メンバーからの発信が目立って減っている」という気づきがあれば、人事は、その管理職との対話や、チームメンバーへのヒアリングを、問題が深刻化する前に始めることができます。

同時に、この視点は前向きにも使えます。メンバーの発言が活発で、指摘の後にも対話が続いているチームがあれば、そのチームの管理職のフィードバックには学ぶべき型があるはずです。「育てる指導」を実践している管理職を見つけ、その伝え方を組織の共通の型として広げていくことは、研修だけでは実現しにくい、育成力の底上げにつながります。

なお、コミュニケーションデータの活用にあたっては、従業員への十分な説明と、分析の範囲や結果の開示先についての合意が前提となります。fairscopeでは、こうした設計を導入時にお客様とともに行うことを基本としています。

結びに

ネガティブフィードバックは、相手の成長のために必要なコミュニケーションです。それが人格否定に転じるかどうかは、日々の一言一言の中で決まります。そして、その境目は、当事者の主観だけでは判断しにくく、会社からはもっとも見えにくいものです。

人ではなく行動に焦点を当てるという型を現場に伝えることに加えて、その型が実際に組織に根づいているかを、会社として確認し続けること。指導の目的が「相手を打ち負かすこと」ではなく「成果を共に高めること」であるなら、その目的が日々の対話の中で守られているかを見守ることも、会社の役割だと考えています。

御社の組織では今、「指導」の名のもとに、誰かが黙り込んでいないでしょうか。その問いに向き合うところから、次の一歩が始まります。

関連記事: 心理的安全性の欠如が招く不正リスク――「空気を読め」の一言から考える

出典

※1 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第30条の2。職場におけるパワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務は、大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から適用

※2 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)における、職場のパワーハラスメントの代表的な言動の類型「精神的な攻撃」

山郷 政史
山郷 政史
株式会社SIHM 代表取締役 大学卒業後、高齢者介護や障がい者支援の現場で働き、サービスの質・組織力向上・個人のキャリア形成のために人材育成の重要性を知る。その後、教育研修団体に入社、全国で登壇するとともに後進の講師育成に関わる。平成25年(2013年でもどちらでも可)より、大手介護グループ企業にて新規事業として研修サービスの開発に関わる。オフライン・オンライン・オンデマンドのブレンデッドラーニングの提供を通して、全国の人材育成を支援した。2025年に株式会社SIHMを設立。研修講師として全国で活動中。これまでの累計登壇は約1,200回、延べ受講者数は約80,000人。
日本ハラスメントリスク管理協会

一般社団法人 日本ハラスメントリスク管理協会

https://harassment-rma.jp/

「ハラスメントを解消し、品性のある組織づくりを目指す」を理念に掲げる一般社団法人です。企業のハラスメント対策や、ハラスメントを組織内から予防するための専門家(講師・相談員)の育成、各種教育・研修などを提供しています。

fairscope コンセプト

fairscope(フェアスコープ)

fairscopeは、メールやチャットなどの日常のコミュニケーションデータをAIで解析し、組織の状態を可視化するHRインテリジェンスサービスです。

チームの対話の状態やその変化を、人の感覚だけに頼らず定点的に確認し、対話を始めるべき場所への「気づき」を提供します。現在、有償PoC(概念実証)のお申し込みを受け付けています。

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